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心地よい箱庭の外側はグロテスク。カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」感想

 

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 どうも、タコヤキです。

 

 久々に小説を読みました。
 カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」です。

 

 

 2017年でノーベル文学賞受賞し、日本でも話題になった作品ですね。
 実は日本でもドラマ化されています。

 

 一人称視点で主人公たちの取り巻く世界の謎が徐々に解き明かされてく感じです。
感覚としてアニメにもなった貴志祐介新世界よりと似ています。舞台もSFで近未来という感じです。

 

 

新世界より」が好きな人は多分刺さると思うので、ぜひ読んでみてください。

 

 

「わたしを離さないで」簡単なあらすじ

 イギリスで「提供者」たちの世話をする「介護人」のキャシーは、提供者たちを介護しつつ、自分たちが育ったヘールシャムに思いを馳せていた。同時にキャシーはこの世界の秘密へも思いを馳せていた。

 


こんな人にオススメ!
SF小説ファンタジー小説が好きな人
・「新世界より」が好きな人
・1人称語りが好きな人

 

感想:すごく綺麗な世界の裏側にあったグロテスクさ。そして、生の祝福。

 

 すごい綺麗で静かだけど、本当はすごいグロテスクな世界。

 本を読んでまず最初にそう思いました。

 

 最初は右も左もわからない世界観ですが、少しずつその正体がわかってきます。

 

 ヘールシャムという箱庭のような世界から、世界の不気味さが覗いていくのはすごくわくわくするのと同時に、ある種の気落ち悪さも感じる。

 

 提供者の介護人の意味がわかっていくと、とても切ないが彼女たちの人生の美しさや悲しさを感じられる。彼女たちが運命に疑問を持ちつつも、運命を受け入れ、幸福感を求めて必死に生を享受している姿は胸をつかれる。

 

 なによりもすごいのが、全編にわたる舞台の雰囲気や空虚さ、そしてグロテスクさだ。世界が彼女たちの存在を無視するかのように扱い、抵抗するものも篝火も消えつつあるのを見ると、まるで見えない世界の悪意というものが彼女たちを運命付け、なおかつ無かったことにしているようで本当に気味が悪いものに感じる。

 

 この小説で僕がグロテスクだと感じるのは、人間の浅ましい感情がこの小説の世界中にあふれているように感じたからだ。世界の真実を知らないほうが彼女たちはマシだったかもしれない。そう感じる人も少なくないだろう。

 

 都合の良い願望から、生み出されて、そして責めたり無かったことにする。

 読者側から見たらこれほどグロテスクな人の悪意を彼女たちを通してみるのだから、人によっては気味が悪くなる人もいるだろう。

 

 そういう人の隠せないグロテスクな感情がこの小説の世界で満ち溢れているのだ。

 

 そんな世界で彼女たちが必死に生を謳歌しようとしているのを見ていると、とても悲しく美しいものに感じる。

 

 どんな理由であれ、生まれきた命を必死に祝福しているようだ。

 

 この小説は箱庭のような世界からグロテスクな世界を眺め、そのグロテスクな世界で生を祝福しようとしている者の物語だと思う。

 

 こんな小説には中々出会えないのではないだろうか。

 

 今回は以上です。

ーそれでは、また。