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唐辺葉介「PSYCHE」感想!酩酊感漂う異色作!

 

 

小説日記

 

こんにちは、タコヤキです。
前々から書きたかった唐辺葉介の「PSYCHE」の感想です。
(ネタバレあり)

 


相変わらずの独特の文体で、今回も楽しめました。もともと唐辺葉介はPCゲームのシナリオライターだったのですが、ライトノベルに進出し、唐辺葉介という名前にしたそうです。
PCゲームのほうでは「キラ☆キラ」などが代表作なので、気になったらプレイして見てください。名作です。

PSYCHE」は現実と非現実がわけわかんなくなっていく感じの物語です。
映画の「インセプション」とか、「ブラックスワン
アニメ映画の「パプリカ」や「パーフェクトブルー
などが好きな人は読んでて面白いと感じるのではないかと思う。

(これらの作品は一番下にて)

 

 

PSYCHE」の主人公ナオはかなり内向的な青年です。事故で家族を亡くし、その幻影を見るようになります。
それでもナオは特に大きな問題とは思わず、その幻影と共に日常生活を送っていきます。
ですが途中からいとこだと思っていたアイという女性は存在しないと告げられます。
そこから何かが本格的に狂いだしていく。
結局ナオは自分の見たいものだし、誰にも迷惑をかけているわけではないからかまわないという考えに陥り、より内向的になっていきます。ですがその過程とても自然でナオからしてみれば、特に問題があるわけでもなく、素直に受け入れてしきます。その過程の静かさは不気味に感じるところもあるほど。
その過程で心配してくれてくれる担任の先生や伯父や伯母などといった人たちから断絶されていく感じがまた不気味。恐らく本当の現実の住人である彼らが、ナオの世界から一人づつ消えていきます。しかしこれはナオみずからが望んだものでもあるのです。
そんな自分が望んでいるものの世界に閉じていくナオは自分の絵を描き続けようとしています。
最後にアイがこの世界が全部蝶の夢だったらどうする?ってナオに問いかけるんですが、ナオにとってはすでにどうでもいいことで、アイの話も聞く耳持たずでした。そしてその後にアイが残念だと言って消えます。

アイにとってはナオにとって現実と繋ぐ最後の存在だったのではないでしょうか。
それが、消えてしまってナオは完全にたくさんの蝶がいる自分の世界にいり浸るようになってしまいました。
不気味ですが、美しさも感じさせるような光景。
ですが、最後に息苦しさを感じたという描写があり、それはナオはその世界は何の出口もない閉じた世界にいってしまったという表れなのではないかと思います。


ナオはおそらく誰とも価値観を共有する他人がいなかったと思うんですよね。結局だれも彼の本心なんかを理解できないし、ナオ自身もそれは不可能だと思っていたのではないかと思います。だって見ている現実がほとんど交わっていないから。
これはナオの話で、ナオの世界だけの話なんです。ですが世界はどこにも出口はなく、閉塞して、完結された世界。
息苦しさの先にあるのは、窒息しかない。

途中で小野田というクラスメートが廃人のようになったという話が出てきます。(これは夢か現実かわかりません)
ナオは彼をみて、次は自分の番だなと察するシーンがあります。きっと親近感があって自分と同じように、自分の世界に閉じていくということををナオはすでに予感していたのではないかと思います。そしてその結末も。


ナオが絵を書こうと必死になっているのは、自分の存在を示すための足掻きのように感じます。
自分はやがて窒息していくと予感しているから、絵で存在を示そうとしている。現実で何一つ価値を見出せなかったナオの最後の自己表現なのではないかと思います。


PSYCHE」は読む人によってかなり感想がかわってくるような面白い作品です。
考察とか好きな人にはぜひ読んで見てください。ページ数も少なく、すぐに読めると思います。
唐辺葉介のほかの作品もこれから読んでいきたいなぁ。

 

今回は以上です。
ーそれでは、また。